回復された湿地生態系における構造および機能の損失

回復された湿地生態系における構造および機能の損失



本研究は世界各地の621箇所の復元・新設湿地とそれに対応する参照湿地をメタ解析して、湿地復元の効果を長期的に評価したものです。

主要な結果は次のとおりです。

復元後に見かけ上の水文学的条件や一部の生物構造が回復しても、土壌中の炭素貯留などの生物地球化学的機能は長期間(場合によっては100年単位)にわたり回復が遅れるか不完全のままであることが示されました。

平均的に、復元・新設湿地の生物的構造は参照湿地の約26%低く、生物地球化学的機能は約23%低いままでした。

回復が比較的速いのは大規模(>100 ha)、温暖気候、河川や潮汐と連結する湿地で、逆に小規模、寒冷気候、孤立した陥没型湿地では回復が遅いかほとんど見られませんでした。

結論として、現行の復元手法と政策だけでは元来の湿地機能を完全に回復できないことが多く、これを復元を口実にした追加的な破壊に用いれば湿地サービスの純減が進む可能性があると警告しています。



活用案

- 復元計画の立案:小規模分断復元よりも可能な限り大規模・連続した湿地回復を優先し、河川・潮汐連結の回復を重視する。

- 監視設計:生物群集だけでなく、土壌炭素・窒素や有機物蓄積を長期(数十年)にわたって監視する指標を導入する。

- 政策・オフセット改定:湿地オフセットや補償制度において、短期の表層回復だけでなく長期の機能回復を要件化する(例:機能回復達成までの責任期間延長)。

- 技術応用:土壌移植や微生物共生体(例:ミコリザ、窒素固定菌)の導入、堆積物供給、水位管理の工夫など、機能(特に炭素・窒素)回復を直接的に促す手法を試験・導入する。

- 研究優先:寒冷地域や孤立陥没型湿地、復元後の土壌機能回復メカニズムに関する長期実験を推進する。



よくある質問


Q: この論文の一番重要な結論は何ですか?
A: 見かけ上水位や一部の生物群集が回復しても、土壌の炭素貯留など生態系機能の多くは長期にわたり不十分で、復元はしばしば遅く不完全であるという点です。
Q: どの機能・構造が速く回復し、どれが遅いですか?
A: 水文学的特徴は比較的早く回復することが多い。動物群(特に移動性の高い脊椎動物)は比較的早く回復する傾向がありますが、植物群集は平均で約30年かかり、土壌中の炭素や有機物の蓄積(生物地球化学的機能)は数十年経っても参照値に達しないことが多いです。
Q: 回復を早める環境的条件は何ですか?
A: 大規模な連続した復元(>100 ha)、温暖(熱帯・温帯)気候、河川や潮汐による水の交流がある湿地は回復が速い傾向がありました。
Q: 湿地は完全に元に戻せますか?「代替状態」になる可能性は?
A: 場合によっては非常にゆっくり回復するだけでなく、別の安定な「代替状態」に移行してしまう可能性があります。土壌の炭素・窒素欠乏や共生微生物の欠如などが原因で、元の状態へは戻りにくいことがあります。
Q: 研究の限界は何ですか?
A: データは地域・湿地型・観測年数で偏りがあり、多くは復元後5年未満の観測が占めます。また測定変数や手法が研究ごとに異なり、因果の確定には限界があります。したがって長期・標準化された監視が必要です。



未来予測

- 現行の「短期的に見かけ上回復させる」手法をそのまま緩和策や市場取引(オフセット)に使い続けると、全球的な湿地機能の純減が進む可能性が高いです。

- 気候変動や土地利用変化が進む中で、温暖地域や水流のよい場所以外の湿地はさらに脆弱になり、回復に要する時間やコストは増大するでしょう。

- 政策的には、単なる面積確保ではなく「規模・連続性・水理接続・土壌機能の回復」を評価指標に含めた長期的モニタリングと保全優先順位の見直しが進むと予想されます。

- 研究面では、土壌微生物の回復や炭素蓄積を促す具体的手法(例:土壌移植、種子・共生体導入、長期水管理)の技術開発と検証が重要課題になります。



元論文はこちら: https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pbio.1001247



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