尿中プロ線維化因子トランスグルタミナーゼ2(TG2)濃度は慢性腎臓病の進行予測に役立つ可能性がある
尿中プロ線維化因子トランスグルタミナーゼ2(TG2)濃度は慢性腎臓病の進行予測に役立つ可能性がある
本研究は、線維化を促進する酵素トランスグルタミナーゼ2(TG2)とその特異的架橋産物ε-(γ-グルタミル)-リシン(Glu-Lys)を尿中で測定し、慢性腎臓病(CKD)の進行予測における有用性を評価したものです。
ラットの腎障害モデル(5/6部分腎摘および糖尿病性腎症モデル)では、疾患早期から尿中TG2とGlu-Lysが上昇しました。
人コホート(CKD患者290名、健常者33名)では、尿中TG2はCKD患者で健常者の約41倍、UTCR(尿中TG2/クレアチニン比)は進行群で有意に高く、単変量解析・多変量解析の結果、UTCRはCKD進行の独立した予測因子となりました。
ROC解析ではUTCRのAUCは86.4%であり、従来のUACR(尿アルブミン/クレアチニン比、AUC 73.5%)を上回りました。
Glu-Lys(UXCR)はCKDで上昇するが、予測力はUTCRに劣る。
血清TG2は尿より高値だが予測能は限定的。
結論として、尿中TG2はCKDの早期検出および進行予測に有望であり、多施設での検証とアッセイ改善が必要とされる。
活用案
- 臨床:CKD患者のフォローアップでUTCRを用いて早期に進行リスクの高い群を同定し、治療強化や頻回フォローを行う。
- 臨床試験:高リスク患者の選抜(入試験基準)および治療効果のサブ解析マーカーとして利用。
- 創薬開発:TG2阻害剤の開発でバイオマーカー(標的抑制の指標)としてUXCRやUTCRを用いる。
- 検査開発:UTCR測定の臨床グレードELISAや迅速検査キットの開発。
- 研究:他の既存バイオマーカー(sTNFR等、KRISパネル)との併用解析により最適な予測モデルを構築。
よくある質問
Q: TG2とは何ですか?
A: TG2は細胞外基質の架橋形成や細胞接着、傷害応答に関与する酵素で、腎線維化(線維化性再構築)を促進することでCKDに関与すると考えられています。
Q: どのように測定されたのですか?
A: 尿中TG2はサンドイッチELISAで定量し、ε-(γ-グルタミル)-リシンは尿タンパクを加水分解してアミノ酸分析で定量しました。結果は尿クレアチニンで補正して比率(UTCR、UXCR)で評価しています。
Q: UTCRは従来のアルブミン尿(UACR)より優れていますか?
A: 本研究のROC解析では、UTCRのAUCは86.4%でUACR(73.5%)より高く、単一スポット尿からのCKD進行予測において優れた精度を示しました。ただし、単一センターのパイロット研究であり、さらなる検証が必要です。
Q: 臨床で今すぐ使えますか?
A: まだ研究段階です。使用前に多施設での再現性検証、アッセイの標準化(臨床グレード化)、外来での適用条件(運動などの影響)確認が必要です。
Q: UXCR(ε-(γ-グルタミル)-リシン)は使えますか?
A: UXCRはCKDで上昇するものの、進行予測力はUTCRに劣り、測定法(消化、検出感度)の改善が必要です。ただし薬理的なTG2阻害の薬効指標(PDマーカー)としては有望です。
Q: 本研究の限界は何ですか?
A: 単一センター・観察研究、TG2 ELISAは研究用で完全な臨床標準化がされていない点、Glu-Lys測定のバラつき、他臓器の線維化が影響する可能性などが挙げられます。
未来予測
- 尿中TG2(UTCR)は、CKDの早期スクリーニングおよび進行リスク層別化に組み込まれる可能性がある。
- 臨床試験では、進行リスクの高い患者選抜(エンリッチメント)や短期エンドポイント設定に有用になり得る。
- TG2阻害薬の開発においては、UXCRや尿中TG2が薬力学的/ターゲットエンゲージメントマーカーとして利用される可能性がある。
- 多マーカー(炎症・線維化プロファイル)パネルにTG2を加えることで予後予測の精度がさらに向上する見込み。
- 実用化には多施設コホートでの検証、簡便な臨床アッセイ(POC含む)や標準化が必要。
元論文はこちら: https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0262104
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