実世界データ(RWD)ライフサイクルにおけるベストプラクティス

実世界データ(RWD)ライフサイクルにおけるベストプラクティス



医療のデジタル化により、臨床現場で日常的に生成される実世界データ(RWD)が量・種類ともに急増している。

本論文は、RWDを分析に使える高品質なデータに変換するための標準化されたライフサイクル(取得、集約・拡張、維持、利用)を提示し、組織が長期的かつ拡張可能なデータ基盤を作るための7つのベストプラクティスを示す。

7つは(1)国際標準準拠、(2)ユースケースに合わせた品質保証(QA)、(3)現場での詳細なデータ入力を促す仕組み、(4)非構造化データを活用する自然言語処理(NLP)の導入、(5)迅速で柔軟な分析を可能にするプラットフォームの実装、(6)透明性と患者還元を重視するガバナンス・プライバシー対策、(7)多様性確保によるバイアス低減である。

各項目には導入上の課題(ベンダーの独自フォーマット、QAの標準化不足、スケーラビリティ、信頼構築の困難など)も整理している。

将来は製薬分野に限らず、診療支援、運用管理、人口健康までRWDの応用が広がる一方で、品質、多様性、ガバナンス、環境負荷を踏まえた意思決定が必要になる。



活用案

- 病院運営:リアルタイムのベッド管理・重症度予測・院内感染監視にRWDプラットフォームを使う。

- 臨床支援AI:NLPでカルテ記載を構造化し、診断補助やトリアージに活用。

- 製薬・規制対応:電子カルテ連携で合成対照群や副作用監視にRWEを活用。

- 公衆衛生:ウェアラブルや地域データを組み合わせて疫学監視や予防介入の最適化。

- 地域間格差対策:低資源地域へのデータ基盤投資と標準化導入で代表性を高める。

- ビジネス/サービス:FHIR/OMOP対応のデータインテグレーション、NLPサービス、患者データのプライバシー保護ツールなど新規事業が見込まれる。



よくある質問


Q: 実世界データ(RWD)とは何ですか?
A: 臨床試験のような実験的に得たデータを除き、診療や運用の過程で日常的に記録・生成される観察データのこと(電子カルテ、検査結果、画像、ゲノム、ウェアラブルや患者報告などを含む)。
Q: RWDの「ライフサイクル」とはどんな流れですか?
A: 主に4段階で説明される。取得(Acquisition)、集約・拡張(Aggregation/Enrichment)、維持(Maintenance)、利用(Usage)。解析で得た知見はフィードバックされ次のデータ生成に還元される。
Q: 著者が示す「7つのベストプラクティス」は何ですか?
A: 1) 国際標準(FHIR、OMOP、SNOMED等)への準拠、2) ユースケース別の品質保証設計、3) 現場での高品質入力を促すインセンティブ、4) NLPで非構造化データを活用、5) 柔軟なデータプラットフォーム(データレイク・マート・EDW等)の導入、6) 患者への透明性・プライバシー保護と価値還元、7) 多様な集団のデータ確保による公平性維持。
Q: データ品質(QA)はどう確保すればよいですか?
A: まずユースケースに応じた「fit-for-use(用途に適した)」基準を定める。大規模データにはAIを使った補助的QA(Augmented Data Management)が有効で、完全な人手精査は現実的でないため、バイアスや欠損を明示して解釈に反映することが重要。
Q: プライバシーや患者の同意はどう扱うべきですか?
A: 法規(GDPRやHIPAA等)に準拠するだけでなく、透明性を高め、患者の理解と関与を促す(意見聴取、シチズンジャリー、明確なオプトアウト権など)ことが信頼維持に不可欠。データ利活用の利益を患者に還元する仕組みも推奨される。
Q: 導入における最大の障壁は何ですか?
A: ベンダー独自仕様による相互運用性の欠如、初期投資(資金・人材)や運用コスト、データの代表性・公平性の確保、そして公共の信頼構築が大きな課題。



未来予測

RWDの活用は今後10年で製薬のRWE(実世界エビデンス)支援から、臨床意思決定支援、運用最適化、人口健康管理まで幅広く拡大する。

FHIRやOMOPなど標準の普及、NLP・ADMによるQA自動化、クラウド基盤の台頭が加速し、リアルタイム解析や学習する臨床ツールが増える見込み。

一方でデータの多様性確保や透明なガバナンス、地域間・階層間の不均衡是正、そしてデータ利活用の環境負荷(エネルギー、e-waste)への配慮が政策課題として重要性を増す。



元論文はこちら: https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pdig.0000003



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