元素イメージングにより明らかになった人間の外側および内側膝状体核細胞中の水銀存在
元素イメージングにより明らかになった人間の外側および内側膝状体核細胞中の水銀存在
本研究は、視覚および聴覚の中継核である外側膝状体核(LGN)と内側膝状体核(MGN)に水銀が蓄積しているかを、剖検由来の組織を用いて調べたものです。
50例のパラフィン包埋切片を自動金属染色(AMG)で検索し、LA-ICP-MSで水銀の存在を確認しました。
その結果、10例でLGN(うち3例でMGNにも)に水銀が検出され、毛細血管内皮細胞、ニューロン、オリゴデンドロサイト、アストロサイトの組み合わせで分布していました。
これら10例はいずれも同側の青斑核(locus coeruleus)にも多量の水銀を有していました。
研究者は、膝状体核への水銀取り込みが視覚・聴覚経路の機能を阻害し、主要皮質の過活動を通じて視覚・聴覚幻覚の発生に関与する可能性を示唆しています。
ただし、本研究は剖検横断的解析であり、膝状体核中の水銀と幻覚の因果関係を直接証明するものではありません。
活用案
- 研究:幻覚を主訴とする患者に対する環境曝露履歴の詳細調査や、血中・尿中の水銀指標と神経機能・画像所見を組み合わせた研究に応用可能。
- 基礎科学:膝状体核を標的とした動物モデルでの水銀毒性の機序解明(ニューロン出力の変化、ミトコンドリア/リソソーム障害、グリア反応など)。
- 診療・公衆衛生:幻覚や関連症状がある集団での曝露評価(食事、職業、歯科アマルガムなど)や曝露低減策の検討。
ただし、本時点での治療方針変更(例:キレート療法の一般化)は根拠不足のため慎重を要する。
- 技術開発:膝状体核など小さな脳領域における金属検出の感度向上や、In vivoイメージング法の研究開発への示唆。
- 公策提言:地域や産業における低線量水銀曝露源(小規模金鉱、火力発電所、火災・火山活動など)に対する監視強化の資料として参照可能。
よくある質問
Q: 何を見つけたのですか?
A: 50例中10例で外側膝状体核に、うち3例で内側膝状体核にも水銀が見つかりました。水銀は血管内皮細胞、ニューロン、オリゴデンドロサイト、アストロサイトに分布していました。
Q: どのように水銀を検出したのですか?
A: 組織学的に自動金属染色(AMG)で無機水銀を黒色粒子として可視化し、LA-ICP-MS(レーザーアブレーション-誘導結合プラズマ質量分析)で水銀の存在を確認しました。
Q: これは幻覚の原因を証明しますか?
A: いいえ。膝状体核に水銀が存在する可能性を示すにとどまり、幻覚発症との直接的な因果関係は示されていません。臨床情報(幻覚の有無)は本研究では利用できませんでした。
Q: どのような人に水銀が見つかったのですか?
A: 水銀陽性の10例は、無診断の人が3例、パーキンソン病が3例、うつ病、双極性障害、多発性硬化症、自己注射による水銀曝露が各1例ずつ含まれていました。
Q: 研究の限界は何ですか?
A: 主な限界は(1)剖検横断的で幻覚の臨床情報がない、(2)水銀暴露の時期や量が不明、(3)AMGは無機水銀のみ検出、(4)MGNのサンプル数が少ない、(5)細胞ごとの定量ができない、などです。
未来予測
- 膝状体核や関連の視聴覚経路における重金属(特に水銀)の蓄積と精神症状(幻覚など)との関連を検証するため、前向き臨床研究や疫学調査が増える可能性があります。
- 細胞・亜細胞レベルでの金属イメージング(例:シンクロトロンX線蛍光など)や、非侵襲的に脳内金属を評価する新しいイメージング技術の開発が促進される見込みです。
- 環境保健政策や職業衛生の面から、低濃度でも慢性的な水銀曝露が神経精神症状に関与する可能性を考慮した監視や対策の検討が進む可能性があります。
元論文はこちら: https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0231870
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